ロンドンの車道を走る自転車族は、相応の緊張感を持ち車道を疾走していました。老いも若きもヘルメットを着用し、蛍光色を身にまとっての走行で、その脇を通過する自家用車やバスもかなり容赦なく飛ばすので、いわば真剣勝負といった様相を呈していました。
東京はどうでしょうか。ロンドンと比べると東京の車道には圧倒的に自転車の数が少なく、地域によって自転車の種類も大きく異なります。
例えば板橋区から豊島区への道のりでは、ママチャリが最も多く、車道、歩道の区別なく自由きままに乗っています。車道を走る際の逆走や信号無視はあたりまえで、その走行方法に何ら疑問を抱いていないようです。ちなみにヘルメットの着用者は皆無です。
一方、ずんずんと南下し渋谷から恵比寿、目黒あたりを走ると、ロードバイク、クロスバイクといった走りを追求する人たちが主流になります。特に交通量の多い通りではその傾向が強いです。ただしヘルメットの着用者は決して多くなく、ロンドンのサイクリストのような蛍光色を身につける人も稀です。
さて、私はといえばなんちゃって自転車通勤ですから、途中は電車も利用します。でもこれはロンドンでは珍しいことではなく多くのBromptonユーザーがしていることなのです。自分自身、誇りを持ってBromptonに乗っているとはいえ、ロードやクロスバイクの人たちからみれば「おふざけ」にしか見えないのかもしれません。
しかしながら、やはりここはロンドンの流儀を守ろうと、ヘルメットを着用し、薄暮には蛍光ベストを着用し、バックバック用の蛍光カバーも装着します。ヘッドライトもテールライトもばっちりです。
つまり、私のとってCommuting cyclingは交通手段である前に趣味であり娯楽であるのですが、ここで事故に巻き込まれ、仕事に支障があってはならないわけで、可能な限り最大限の事故防止対策は職業人として、あるいは家族を養う世帯主としての当然の責務なのです。
ですから、ここ東京にあって、たかだかBromptonじゃないか、あんな小さな自転車に乗るのに大げさだな、という冷ややかな視線にさらされる事になったとしても、ヘルメットと蛍光カラーの目立つ装いは続けていこうと思っているのです。
自分ではこのファッションは案外かっこ良いと思っていて、子供たちの評判も悪くありません。ですから、今日帰宅したその足で長男の塾にこの格好のままお弁当を届けに行きました。
ところ、蛍光ベストを身にまとい右手に折り畳んだBrompton、左手に弁当袋を持った私をみて事務のおねえさんたちは驚きの表情を隠さず、開いていた引き戸から垣間見えた5年生のクラスはにわかにざわめきました。「あれ誰?」「××のパパだよ」
ただ、私は見逃しませんでした。子供たちの好奇の視線は私の右手の物体に集まり、その表情はむしろ羨望に満ちていたことを。
わたしは心の中で子供たちにこう話しかけました。
「この小さく折り畳まれているのは、実は自転車なんだ。世界で最もエレガントで、世界で最も心地よく走り、世界で最も格好良く折り畳める最高の自転車におじさんは乗っているんだぞ。」と。
「これに乗ってみたかったら、まずは勉強をがんばれよ。そして自分で稼いで買いなさい」とも付け加えました。
「羨望」の部分が私の勝手な妄想でないかどうか、明朝、子供に確認しておきます。
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